2017年02月23日

背中か弁を落

次は花魁になるはずの振袖新造の天華は、雪華大夫に執心している石油王に、いたく同
情しているようだった。
何度つれなくされても健気に通って来るので、代わりに座敷に上がるうちに、どうやら
ほだされたらしい。
雪華花魁は、衣擦れの音をさせながらしずしずと上座に座り、打掛を滑らせた。
錦糸の縫い取りは凛とした燕子花(かきつばた)で、雪華大夫に似合いの文様が絢爛と
した打掛に踊っている。
禿の六花は、雪華の傍に静かに控えて様子を見つめていた。
一挙手一投足が流れるように美しい花魁は、様式美の中に在った。
尾形光琳の有名な屏風絵の渦巻紋をそのまま打掛に移し、中庭に爛漫と咲き乱れる季節
の花々を流れるように配置してある。調度と自分の着物が溶けあうように計算されてい
た。
「さ。顔合わせと参りましょうか。」
案内役のやり手が声を掛ける。
外国の客人は雪華大夫の姿を見るなり、感嘆のため息を吐き、思わずにじり寄った。
とんと、手にした朱塗りの長尺煙管(きせる)を煙草盆に置くと、その音にはっとした
客人は我に返り腰を下ろした。
雪華太夫は下座に座る客人に、そっと口を付けた煙管を押culturelle兒童益生菌してよこした。新造として傍
に控える天華太夫は、花魁の寛大な所作に舌を巻く。
初回の顔合わせは客とは口も利かず品定めだけ、二度目はほんの少し距離が縮まるだけ
のはずが、雪華は視線を絡め、蕩ける笑みさえ浮かべてよこした。
「主さま。美しいお花をありがとうございんす。」
「花なぞ……お前の前では恥じ入って花としそうだ。」
煙管を押し抱いて、客は感激の面持ちだった。
粋も判らぬ六花は思う。
「あんな長い煙管貰って何が嬉しいんだろう。くくらいしか、使い道なくね?」
「あ~あ。外人さん、とろけちゃってるじゃん。確かに、雪華兄さんの綺麗さったら…
…惚れるよなぁ……」
まだまだ何もわからぬ見習い禿だった。
もっと驚いた事に、舞い上がってしまった中近東の客人は、座敷の帰り道、検番に向か
うと、太夫を手に入れる為、雪華と同じ重さの金塊をその場に積んだらしい。



Posted by いてこてんと横 at 13:13│Comments(0)
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